The Lepidopterological Society of Japan
蝶 と 峨 Ty6 to Ga Vol. 31, No. 3 & 4, 1981 191
6 アゲ ハ の 交尾 器 に ある 光 受 容器 二川 度 大 郎 ( 仙 東
眼 以 外 の 部 位 で の 光 受 容 (Extraocular photoreception, EOP) は 多く の 生物 で 知ら れ て いる . 昆虫 で も 生物 時 計 の 研究 の 中 で , 脳 や 腹部 の 神経 節 と いっ た 所 講 中 枢 神 経 系 で の 光 受 容 は 見 出さ れ て いた が , 末 栓 に EOP が 確認 され た 例 は 報告 され て いな か っ た . と ころ が , ナミ アゲ ハム を 用 いて 腹部 未 端 神経 節 に お ける 感覚 入力 と 運動 出力 の 関係 を 調べ て いた と ころ , 交尾 器 に 光 受 容器 が 存在 する こと が 明らか に な り , その 感覚 生理 学 的 性 質 を 中 心 に 研究 を 行なっ た .
確認 され た 光 受 容 部 位 は 雌雄 各々 2 か 所 ずつ で , 雄 で は 1. scaphium と , 2. fultara inferior。 雌 で は 3. papilla analis と , 4. papilla analis と amella postvaginalis の 間 の 膜 部 で ある . 各部 位 に 分 布 する 神経 か ら 光 照射 に 対 し て 興奮 性 の イン パル ス が 記録 され , 感度 は 400nm ( 紫 ) で 最大 と な る .
受容 部 位 の 内 , 2 と 4 は 透明 な 膜 で ある . 1 と 3 は 着色 し た クチ クラ で ある が , それ ぞ れ に クチ ク ラ の 一 部 が 透明 た に な っ た 「 窓 」 が 存在 する . この 「 窓 」 を 黒い ペン キ 等 で ふさ ぐ と 神経 か ら 応 答 が 得 られ な く な る . そこ で , scaphium と papilla analis の 内 部 構造 を 電子 顕 向 鏡 で 観察 し た と ころ ,「 窓 」 の 直下 に , 内 部 に 層状 構造 を 持っ た 細胞 が 幾つ か 見 出さ れ た . 同じ タイ プ の 細胞 は 軟体 動物 で 視 細胞 と し て 同定 され て お り , 今回 アゲ へ で 観察 され た も の も 光 受 容 細胞 で ある と 考え られ る .
謗 し く は 調べ て いな い が , 同様 の 光 受 容 は 日 本 産 蝶 類 9 科 の 内 , 未だ 試し て いな い テ ング チョ ウゥ 科 と ウラ ギン ンジ ミ 科 を 除い て , 全て の 科 で 少な く と も 1 種 は その 存在 が 確認 で きた . し か し 峰 類 に つ いて は 昼 行 性 , 夜行 性 あわ せ て 6 種 を 試 し た が 未だ 反応 の 得 ら れ た も の は な い . 現在 この 受容 器 の 生 理 ・ 形 態 の 研究 と 合わ せ て , その 生物 学 的 意味 に つい て の 研究 を 行なっ て いる .
7. 大 分 県 に お ける シン ジュ キノ カワ ガ の 発生 寺山 武 ・ 阿 部 俊 久 ・ 宮 田 形 (九州 )
大 分 県 に お ける シン ジュ キノ カリ ワ ガ の 記録 は , これ まで 別府 市 に お ける 1 例 の み で あっ た . 1980 年 8 月 25 日 大 分 県 玖珠 町 におい て, 阿部 は 栽植 され た シン ジュ に た に 多数 の 本 種 の 幼虫 を 発見 し , 筆者 ら は 現地 で の 観察 と 飼育 を する 機会 に 恵まれ た .
本 種 に 関す る これ まで の 報告 に よる と , 発生 地 で は 幼生 期 の 観察 も る な され て いる が , 周年 経過 は ま っ た く 解 明 さ れ て いな い . 筆者 ら の 観察 の 結果 , 現地 玖珠 町 で は 少な く と も 2 世代 が 発生 し た と 考え られ る 古い 区 を も 確認 した. 約 600 頭 の 幼虫 に つい て , 現地 で の 成育 状況 の 追跡 , 一 部 の 飼育 を 行 な っ た と ころ , 同年 2 月 下旬 か ら 10 月 中 旬 に か け て 成虫 が 羽化 し , これ まで の 報告 に な い 高 い 羽 化 率 を 示し た . 即ち 室内 飼育 48 幼虫 , 現地 袋 が け 55 幼虫 と も に 70% を 越え る 羽化 率 で あっ た . し か し , 現地 で 放置 し た 幼虫 は , シン ジュ の 樹幹 な ど で 多 数 が 暴 化 し , おびただしい 画 群 を 形成 し た も の の , 野外 羽化 は 約 20 頭 の 確認 で 極め て 少数 , 原因 不明 の 死亡 遇 が 目立っ た . な お , 寄生 性 の 昆虫 類 は 確 認 さ れ な か っ た .
本 種 の これ まで に 知ら れる 習性 と し て , 幼虫 に 刺激 を 加え る と 落下 する 習性 , 踊 の 発音 , 羽化 直後 の 成虫 と 凝 死 現象 な ど を 今回 確認 し た ほか , 幼虫 を くわ えた スズ メ が すぐ に 落と し て 拾 て る 現象 を 数 回 確認 し て お り , 捕食 者 に 対す る 毒性 に ょ る 適応 が 考え られ る . 9 月 下旬 か ら 10 月 中 旬 , 成虫 の 習性 観察 の た め , 現地 で 約 60 頭 の 成虫 を 自然 放置 , その 際 , 後 次 の 一 部 を カッ ト す る マー キン グ を 行 な っ た . と ころ が 10 月 24 日 まで の と ころ , マー キン グ し た 個体 は 現地 で は まっ た く 再 発見 され ず , 成 虫 は か な り の 飛散 習性 を も ね つも の と 考え られ る . 以後 , 発生 地 で は 次 世代 の 卵 , 幼虫 な ど は 発見 され て いな い .
な お お 付記 する と , 1980 年 9 月 12 日 大 分 県 庄内 町 黒岳 に お いて , 常設 ライ トト ラッ プ に より 本 種 1 頭 を 宮田 が 採集 し た が , 発生 地 は 不明 で ある .
8. 大 分 県 の 明 類 宮田 形 (九州 ) 1979 年 4 月 大 分 に 転勤 し て 以来 , 今後 研究 を 続け る 上 で まず 大 分 県 の 賊 相 を 正確 に 把握 する 必要 を
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感じ , 次 の よう な 方 法 で 調査 を 行なっ た . 1. カー テン 法 お よび ファ ン 式 トラ ッ プ に よる 採集 . 2. 二 段 式 誘 賊 灯 を 県 下 11 地点 に 設置 し , 1 年 を 通じ て 採集 . 3. 幼虫 の 徹底 的 調査 . 4 文献 に よる 大 分 県 の 峨 の 記録 の 調査 . 以上 の 方 法 に より 現在 まで 種 名 の 判明 し た 大 分 県 産 峨 類 は 45 科 1362 種 で ある . まだ 同定 の 終っ て いな い 賊 は 約 150 種 あ る . 調査 地点 の うち 興味 深い 峨 が 採集 され た 地点 に つい て 紹 介し た . 賊 の 種類 数 の 点 で も 種類 構成 の 点 で も 最も 興味 深い 所 は , 九重 山 群 の 黒岳 (海抜 1685 m) で ある . 中 腹 の 黒 岳 蘭 (730 m) の 付近 まで は 落葉 広葉 樹 の 繁茂 し た 原生 林 で , 現在 まで 約 1000 種 の 上 が 黒岳 荘 に 設置 し た 各種 トラ テッ プ に 入っ た . いずれ も 本 州 の 比較 的 高い 山地 と 共通 する も る ので, 例 を あげ る と ミヤ マオ ビ キ リ ガ (九州 未 記録 ), マメ キシ タバ (九州 未 記録 ) な ど Catocala 10 余 種 , シ ー ヴ ェ ル スシ ャ チ ホ ュ (九州 未 記 録 ), ユウ チ ス ズ メ な ど が ある . 本 州 に 分 布 し な い 種 類 は ここ で は 採 れず , また 栽培 植物 を 主 に 食す る 上 峨 は 個体 数 は 少な い . 南方 系 の 偶 産 虐 は ホソ ッ バ ョ トウ , シロ フク ュ ョ ノメイガ , シン ジュ キノ カワ ガ が 採れ た . 火山 性 一 次 草原 の 残る 久住 高原 (800m) も 興味 深い 地点 の 1 つ で , ヒメ スズ メ , キバ ラ ヒ ト リ , モン クロ アサ ギ ヒ トリ (九州 未 記録 )) ウス イロ キョ トウ (九州 未 記録 ) ユニ ミュ モン クチ ズバ, トラ サン ドク ガ な ど 一 次 草原 に 特有 と 思わ れる 蜂 が 採集 され た . 一 方 宮崎 県 に 近い 浦 江 町 尾 浦 は 海岸 に 近く , 照葉樹 林 が 残っ て いる . ハス オビ ト ガ リ シ ャ ク , キイ ロ エ ダ シャ ク , キイ ロミ ミ モ ン エダ シャ ク (九州 未 記 録 )), サツマ ニン シキ , エサ キマ ダラ (九州 未 記録 ), クロ ス ジュ ミ モ ン クチ ババ, ニ ジオ ビ ベ ニア ツバ , ハマ オモ ト ョ トウ な ど が 採集 され た . な お この 研究 は ト ョ タ 財 団 の 援助 に より 行なわ れ た (助成 番号 78-1~242, 79-1 148) .
9. ミス ジ チ ョ ウ 属 Neptis, hylas グル ー プ の 再 検 討 佐 々 木 公 隆 (九州 )
Erior (1969) は , 雄 変 尾 器 の valva の ampulla 末端 の 突起 が 大 きく , 強く 湾曲 する と いう 特徴 に よっ て か as group を 明確 な 一 群 と 認め た . 婦 yZs group は 11 種 を 含む が , 筆者 は その うら ち 8 種 (hylas, ida, sappho, tamur, clinia, clinioides, mindorana, duryodana) の 雌雄 交尾 器 , 砲 脈 , 斑紋 な どの 形質 を 比較 検討 する こと が で きた . 雄 交 尾 器 の valva や 雌 交 尾 器 の corpus bursae お よび 雌 の 腹部 第 8 節 背 板前 縁 下 方 の 骨 化 の 著しい 陥 入部 (valva の ampulla が , か か る 部 位 と 思わ れる ) の 形 態 か ら , か 7as 亜 群 (ylas, ida, sappho, tamur) と clinia 亜 群 (clinia, clinioides) に わけ る こと が で きる . さら に ps 亜 群 は , 斑紋 , 贅 脈 の 分 枝 状 態 の 相違 な どか ら , 東南 アジ ア に 分 布 す る か las, ida の グル ー プ と 西部 衣 那 系 的 な 分 布 を する sappho, tamur の グル ー プ に 分 ける こと が で きる . Mindorana お よび duryodana に つい て は , 上 記 の 亜 群 の 種 と は か な り 異 な っ た 形態 を 示し , その 所 属 の 決定 に つい て は , め /gy group 全 種 の 材料 に も と づく 検討 の 結果 に 待ち た い .
10. キチ ョ ウ 属 Eurema, Terias 亜 属 の 系 統 と 生物 地理 白水 隆 ・ 矢 田 作 (九州 )
キチ ョ ウッ ウ 属 の 旧 世 界 の 代表 群 で ある 7erias 亜 属 の 系 統 関 係 を 推定 し , この 結果 に も と づい て Terias 亜 属 の 歴史 的 生物 地理 に つい て 論議 し た . 斑紋 ・ 次 形 ・ 性 標 ・ 脈 相 ・ 雌 雄 交尾 器 ・ 紫 外線 反射 ペタ ー ン な どの 人 外部 諸 形 態 に も と づき , ヘ ニ ッ グ の 理論 に よる 系 統 解 析 を 行なっ た . 7erias 亜 属 に は , 古い 時 代 に 分 岐 し た と 考え られ る 3 つの 単 刑 群 (62pg/e, smilax, ada 群 ), 3 種 か ら な る /ecge 群 , 14 種 を 含む sari 群 の 3 種 群 が 認め られ た . Smilax, hecabe の 各 群 の 種 は ,。 いずれ も オー プン ラン ド な いし 林 縁 部 を ^ ビ ター ト と し , 概して 個体 数 の 多い 普通 種 に 属す る . また , hecabe 群 の 種 は , 大 部 分 が 広域 分 布 種 で か つ 同 所 的 な 分 布 を 示す . 一 方 , 42pg/e, ada, sari の 各 和 群 の 種 は ,。 いずれ も 森林 性 で , 一 般 に 個体 数 の 少な い 稀 種 に 属す る . Sari 群 の 分 布 は , イン ドン パプ アフ 地域 に 限定 され , 大 部 分 の 種 は 島 風 単位 の 狭 分 布 を 示す .
系 統 分 析 に よっ て 得 ら れ た sari 群 内 の 3 癌 鐘 (sari 亜 群 一 candida, celebensis, mentawiensis, andersoni, sari, sarilata; lacteola 下 群 一 pg7774。 lacteola, hiurai; tilaha 亜 群 —tilaha, nicevillei, tominia, lombokiana, timorensis) を 自然 群 と みな し , これ ら の 亜 群 ご と に 種 の 分 布 を 整理 し て みみ た. その 結果 , sari 群 の 種 は , 各 亜 群 内 で は ほほ 完全 な 異 所 的 分 布 示 すこ と が わか っ た . さら に ヘ へ = ニッ
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